平成十三年作 79歳 第六句集「日月」所収
春蝉は、主に本州から九州にかけて分布し、国外では中国にも生息するという。多くは松林に棲み「松蝉」ともいうが、他の蝉に先駆けて鳴き始めるのが「春蝉」の名の由来である。晩春の晴れた日、雄が一斉に鳴き出す。その鳴き声は、激しい雨がシャーシャーと降っているようで、先生は「一山をはみ出せる」と捉えたのである。私が初めて秩父で春蝉を耳にした時、山を揺るがすような響きに驚いた記憶がある。
掲句が詠まれた平成13年6月、NHK学園伊香保俳句大会で先生が講演をされた。その3年後、伊香保温泉観光協会の事業で伊香保の公園に春蝉の句碑が建立された。伊香保で読まれたかと思いお訊ねしたところ、そうではないとの事であったが、私の記憶では、伊香保は松林が多かったと思う。伊香保を訪れた人は、松林を「はみ出す」ほど勢いのある「春蝉」の声に掲句を重ね、成程と頷くことであろう。
鈴木すぐる 主宰
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